伊藤美菜子 准教授 在学生座談会

2020年、生命科学科第一期生 伊藤 美菜子 先輩が、
研究室主宰者として病院キャンパスに戻って来られました。

前例のない第一期生のキャリア形成や、第一線で活躍する研究者の実際など、
1~4年生の在学生が気になることを今井教授も交えて聞いてきました!

今井教授

まず自己紹介から、私は九大の今井と申します。3年前に来たのであまり九大のことを知らない面もあるのですが、もともと東大で学位を取ってそのあとそのままポスドクを4年くらいしました。その後神戸の理研でPI(研究室主宰者)を始めて、7年くらい理研にいました。そしてここ九大に3年前にやってきました。伊藤さんもかなりお若いと思うのですが、僕が自分のラボをはじめたのも32歳のときでした。今日はよろしくお願いします。

では、初めに伊藤先生の略歴をおねがいします。

伊藤准教授
伊藤美菜子と申します。生命の1期生で、出身は福岡県北九州市小倉高校出身です。生命の学生の頃は卒研でウイルス学の柳先生の研究室にいっていて修士まで柳研で、そのあと慶應で吉村先生の免疫学の研究室で博士課程を過ごしました。それで、吉村研でポスドクを3年間やってさらに講師をちょっとやった後に今年の2月から独立准教授として、この九州大学に移ってきました。
在学生
今日は受験生向けの記事の対談ということでこれからどんどん質問していきたいと思います。

伊藤先生は第一期生。前例がない学科に入学した理由は?

武島@3年生
まず、伊藤さんは1期生ということでまだ生命科学科(生命科)自体あまり知られていませんでしたが、高校時代はどのように進路を決定されたのでしょうか。
伊藤准教授
はい、進路をどのように選んだかっていうのはもともと医療系に進みたくってそっちの方を目指していたのですが、人見知りでコミュニケーションをとるのが苦手だったのでお医者さんとかそういう患者さんと深くかかわるのは向いてないと周りからは言われていて、自分でもそう思っていました。そんなときに当時、再生医療が流行っていて一般の人でもそういう情報が入ってきていたので、医療系でも研究職に進めば一つの研究でたくさんの患者さんの力になれるのがいいなと思い始めました。そんなとき医学系で研究できる生命科が出来たって聞いたのでトライしてみました。でも実際受験するときは1期生ということもあって周りからの反対もありました。本当にそこでいいのかみたいな。最初は合格するのとかも厳しいという情報が流れていたこともあって、免許がとれないのにそんな難しいところ受けてもなぁと考えたこともありました。それでも、いいなって思った生命科のポイントは学部から臨床なしでそのまま研究に進めるということでした。若いうちから研究に励めるのがいいなと思って選びました。
今井教授
当時の評判はどんなかんじでした?
伊藤准教授
医学部でできるっていうので医者レベルの頭がないとだめとか言われましたね。偏差値も医学科ほどじゃないですけど薬学部とかよりも上だったし難しかったです。実際入ってみても周りのレベルもそれくらいでした。出来たてで先輩もいませんでしたし、医学部の研究職の情報がなかったので、入ったあとどうなるとかとても不安でした。入学当初はとても期待されました、この学科は9~10年計画だからって言われました。そこで博士号(5-6年)を取るっていうのがある程度プランとして考えられていました。
今井教授
初年度の学年の雰囲気とかどうでした?
伊藤准教授
結構濃かったですね。仲も良くて生命の自習室によくみんなで集まりました。
武島@3年生
生命科は人数も少ないですけどその点でよかったこととかありますか
伊藤准教授
仲が良くなることですかね。今でも同期とは仲が良くて将来的には共同研究とかもしてみたいと思っています。同じような意思を持った仲間と一緒に学べるのは貴重だと思います。ライバルでもありますけどね。
武島@3年生
医療系に行きたいというのはいつから考えていたのですか?
伊藤准教授
医療系に行きたいっていうのは小学校の時から考えていました。小さいころ手術をしたときの女医さんや看護師さんが優しくて、すごくいいイメージがありました。それで、ずっと医療系にいきたいと思ったまま高校の進路の時期を迎えました。
今井教授
そういう医療に興味がある人達のなかで医学部に行くか生命科のような研究系の学部に行くか迷っている人は多くいますよね。僕は臨床に行く気はなかったんですけど基礎医学の研究がしたいなと思っていました。その時も医者になった方がいろんな研究ができるという意見もあり、迷いました。ただ医学部となると受験はかなり難しいし、臨床もあるのですぐに研究はできないですよね。僕はとりあえず迷って途中から医学部にいけなくもないカリキュラムを組んでいる東大に進学しました。
伊藤准教授
私も臨床は無理だなって思っていて何となく研究がしたいとは思っていたのでそれが大きかったですね。
今井教授
僕の頃は九大の生命科はなかったけどあれば選択肢としては有力だったかなあとは思いますね。僕は理学部だったので人体のことは全く習わなかったですが、生命科は医学部の基礎系の授業はだいたい受けられるということでいいですよね。

高校の頃の研究者のイメージ

武島@3年生
高校生の頃って研究者ってイメージ湧きました?
伊藤准教授
いや、湧いてなかったですね。
今井教授
そもそも医学系の研究者っていわれても高校生はイメージ湧かないですよね。
伊藤准教授
本当にテレビとかで、こういう研究があってこういう新しい薬や医療法が開発されたといったようなアウトプットされたすでに出来上がったものしか知らなかったです。そこまでの過程でどのようなことが行われているのかは全く知りませんでした。
今井教授
では研究に魅力を感じるようになったのはやり始めてからってことですか?
伊藤准教授
そうですね、研究に魅力を感じたのは卒研をやり始めてからで、そこではまってしまいました。当時ボスの柳先生が言われていたのですが、「好きこそものの上手なれ」というか本当にその通りで実験が楽しくって没頭しましたね。
藤井@4年生
研究者になることを迷ったことはないですか?
伊藤准教授
院生まではただただ研究が楽しかったのですが、最近PIを意識するようになって実際に研究室で実験をするのと研究室を運営するのとでは全然違うのでそういう面で悩むことは増えました。
今井教授
研究者は段階ごとに悩みはそれぞれありますが今の伊藤さんのPIになりたての頃はそういった壁を強く感じますよね。
藤井@4年生
大学(アカデミック)で研究を続けるのか企業に就職するのかで悩んだことはないのですか
伊藤准教授
学部生の頃は全然そんなことは考えていませんでした。ただただ楽しいって感じで先のポストとかあまり気にせず好きなことをやろうと思っていました。

学生の時に学ぶべきこと

大谷@2年生
学生の時の授業でこれはやっておいてよかったと思うことってありますか
伊藤准教授
学部生のときに学んだ生化学・生理学や免疫学、神経解剖学なんかはよく使いますね。そういった知識を基礎に普段実験をしています。
今井教授
学部生の時に一通り人体全体を勉強していれば、実際に専門分野を研究する際に役に立つことは多いと思います。教科書を最初から最後まで勉強するっていうのは学部生の時期にしかできないですからね。
伊藤准教授
そうですね。そこまで興味がない分野も知識として知っておくと自分の研究分野と考え方や手法を組み合わせたりして新しいアイデアにつながったりもしますよね。
今井教授
生命科であったら、学部生1,2年でも空いている時間とかにラボにきて実験をさせてもらうこともできますよね。
武島@3年生
勉強以外で学部生のうちにしておいた方がいいことはありますか。
伊藤准教授
私は、卒研を始めるまではバイトやサークルをいろいろやりました。特に深夜のバイトにはまってしまって好きでひたすら働きました。それで、長い休みとかで1か月ニューヨーク行きました。学生の時間があるうちにいろんなところに旅行に行った方がいいと思います。

研究室を選んだ決め手

武島@3年生
学生時代にウイルス学の研究室に入ろうとした理由はなんですか。
伊藤准教授
私自身一人ではなまけちゃうので、厳しく指導してくれそうな研究室を選びました。結局通ってみると優しい教授でした。最初の研究室で研究の基礎を学ぶことになるので、研究内容より実験手技や考え方などの基礎知識をしっかり指導してくれるかどうかがとても大切だと思います。
藤井@4年生
ラボの生活はどんな感じでしたか。
伊藤准教授
修士までは朝もそこまで早くなくて帰りもタイムコースでサンプルの回収とかない限りは普通に帰れていたんですけど、博士からのラボは免疫の研究室ということもあって解析に時間がかかって生活のリズムが少しくずれましたね。基本的にはラボごとに方針が違うので自分に合ったところに行けばいいかなと思います。

進学と費用

藤井@4年生
修士に進む際にお金の心配とかなかったですか
伊藤准教授
私は修士の間は奨学金をとっていました、そのあと博士からは学振(日本学術振興会特別研究員)をとりました。
今井教授
学振は大きいですよね。取ることが出来れば、ほぼほぼ生活はできますよね。

研究者としての醍醐味

今井教授
研究者をやっているとうまくいっているときとそうでないときがあると思いますが、そのような時どうしていますか。
伊藤准教授
ちょっとしたことでも喜ぶことを意識しています。もちろんデータは出た方がいいですが、うまくいかないときは違うことに楽しみを見出して頑張っていました。ルーチンワークとかもうまくできたら喜ぶとか過程を楽しんだりすることを今でも大切にしています。
武島@3年生
アイデアはどんな時に降りてくるんですか。
伊藤准教授
突然思いつくというよりは、常に自分の中ではいろんなことをぐるぐると妄想しています。その中で調べれば調べるほど世間が知りえていないことが分かるようなときはわくわくします。
今井教授
自分が考えたことを証明するのが楽しいし研究者の醍醐味ですよね。

博士からの研究室

武島@3年生
九大から慶應に行ったのは何かきっかけがありましたか
伊藤准教授
ちょうど祖父が脳梗塞で亡くなった時に慶應の吉村先生の脳梗塞と免疫の講演をたまたま聞いて、自分が修士までやっていたウイルスを用いた免疫学研究とも結びつけられそうだったのでその日のうちに吉村先生に声をかけました。そしてラボに見学に行った日のうちに博士課程で進学することを決めました。
藤井@4年生
実際に博士からの研究室はどうでしたか
伊藤准教授
私が行ったところは教授対研究室のみんなという形で一人一人が独立して頑張っていました。一方でライバルも多くて大変なこともありましたが。
今井教授
研究者は研究人生が長くなると競合相手が多い中で生き残っていくすべや独立性を身に着けることが求められます。博士になると教授が厳しいことを求めてきたり、時には先輩がライバルになったりといろいろあります。
伊藤准教授
そういう時に周りにどれくらい聞けるかって大切だと思います。いろいろ素直に聞けないとどう動いていいのかわからなくなる。ライバルが増えても真摯にいろんな人にアドバイスをもらう姿勢は大切だと思います。助けてもらうだけじゃなく、自分のできることで貢献しようと思いギブアンドテイクを目指して頑張れました。
中村@1年生
研究者はやっぱり体力が必要ですか
伊藤准教授
体力も働き方も人それぞれなので、自分に合った働き方を考えて自分でプランニングする能力のほうが大切だと思います。
今井教授
自分の能力をどのような形で発揮したら最大限の効果が得られるかって考えることは必要です。楽しみながら自分の能力を最大限発揮できるような努力のペース配分を見つけることは研究に限らず人生のテーマだと思います。

論文が掲載されたときの心境

藤井@4年生
有名な雑誌(Nature誌)に論文が掲載された時の心境はどうでした?
伊藤准教授
やっと終わったという気持ちの方が大きかったです。論文は提出してから投稿されるまでとても長い時間と労力、そして精神力を有するので正直ほっとしました。
今井教授
論文を出す前と後で世界は変わりましたか
伊藤准教授
そうですね。多くの人に認知してもらえるようになりましたし、共同研究なども論文を通してやらせていただいています。

研究者のワークライフバランス

藤井@4年生
女性の研究者だとやはりワークライフバランスとか大変だと思いますがどうですか?
伊藤准教授
私は結婚をしているのですが、夫は海外で研究をしていて一緒には生活をしていないので今は自由にさせてもらっています。でも将来的には子供も作りたいですし、今ちょうどそのことで悩んでいます。
今井教授
今は子育てや産休の間の支援として実験補助の人材雇用の補助金を大学が出してくれたりとかするのでそういった制度を使うのもいいと思います。研究職は普通に女性が活躍できる場です。

後輩へひと言お願いします

武島@3年生
最後に伊藤さんから後輩に一言
伊藤准教授
研究の世界はとても楽しいです。私は没頭している間にここまで来てしまいました。学部生のときにお世話になった柳先生の好きこそものの上手なれという言葉は私の心の支えになっています。研究の世界に限らずなんでも好きなように後悔しないようにするのがいいと思います。私は吉村先生の講演を聞きに行ったことが転機となりましたが、たくさんのきっかけがあると思うので自分からアクションを起こしてみることが大切だと思います。

伊藤美菜子先輩

プロフィール

2011年
九州大学医学部生命科学科 卒業(第一期生)
2013年
九州大学大学院医学系学府医科学専攻・医学専攻修了
2016年
慶應義塾大学医学研究科博士課程修了
2016年
慶應義塾大学医学部・特別研究院(JSPS)
2019年
慶應義塾大学医学部・講師
2020年
九州大学生体防御医学研究所アレルギー防御医学分野・テニュアトラック准教授

代表論文

  1. Ito M., Kamai K., Nakamura T., et al. Tissue regulatory T cells and neural repair. Int. Immunol. 21;31(6):361-9, 2019.
  2. Ito M., Kamai K., Mise-Omata S., et al. Brain regulatory T cells suppress astrogliosis and potentiate neurological recovery. Nature 565 (7738):246-50, 2019.
  3. Ito M., Shichita T., Okada M., et al. Bruton's tyrosine kinase is essential for NLRP3 inflam­masome activation and contributes to ischaemic brain injury. Nat. Commun. 10;6:7360, 2015.
伊藤美菜子先生 基礎医学研究者を目指すなら