研究のススメ

基礎医学研究の醍醐味は?

現役教授からの「基礎医学研究のススメ」

 

  私は、哺乳類の初期発生について研究を行っているのですが、この時期の胚子は成体からかけ離れた不思議な形態で、様々な発生現象がミクロの世界で進んでいます。それはとても興味深く魅力的な世界です。私は、この発生現象について細胞と分子レベルで何が起きているかを明らかにしたいと思っています。

  私の研究人生は、「ひとつの細胞である受精卵がどのようにしてひとつの生物となって生まれてくるのだろう?」と、学部生の時に興味を持ったことから始まりました。その後の卒業研究で、ある遺伝子の解析を行ったのですが、それが後に体の左右非対称に関連していることが判明しました。 当時は体の左右を作る仕組みは解明されておらず、この遺伝子解析が生命の左右軸を理解するための突破口となりました。

  現在は、大学教員として研究以外の仕事も多く持ち、研究においても研究室のメンバーの指導やサポートに就くことが多くなりましたが、それでもやはり、時間を見つけて自ら実験を行っている時間を楽しく感じます。 研究は数年単位で取り組むものであり、地道な実験を繰り返し重ねていきます。予測どおりに結果が出ることもありますし、予想外の結果になったとしても考察を深めながら次に行うことを計画し再び実験を行う。 こうした繰り返しの中で、新しい結果が見えてきた時には体が震えるくらい興奮しますよ。 こういう瞬間に基礎医学研究の醍醐味は根本原理に迫ることが出来ることだと実感します。

  皆さんも自分が興味を持てるところをスタートラインにして、基礎医学研究の魅力を体感してみてください。

 

 

 

 

  研究の魅力は、何よりも自分の興味があることを自分のスタイルで追求できることです。何をテーマに選んでも良いし、どう攻めても良い。そこが一番の魅力です。

  私は、高校生の頃から研究者になるつもりでいましたので、医学部卒業後は迷いなく大学院に進学しましたが、研究テーマについてはなかなか決めることができませんでした。当時は分子生物学が盛んで、多くの研究者が様々な遺伝子の研究に取り組んでいたのですが、私はその流れに加わることに気が進みませんでした。様々な文献を調べ、 考えた上で遺伝子に働きかけるタンパク質の研究を始めることにしました。

  研究の当初は、特定の遺伝子に働きかけるタンパク質という一対一の関係に着目したのですが、進めるうちに一対一ではなく一対多もしくは多対多の関係を探ることに興味が移り、遺伝子全体、つまりゲノムを意識した研究に取り組むようになりました。 ちょうどヒトゲノム計画が議論され始めた時期とも重なり、今の専門であるゲノム科学の研究へと進んでいきました。

 

 

 

  研究では、いかに人と違う問題を見つけて解くか、あるいは同じ問題でもどのように解くかが重要になってきます。問題設定やアプローチなど、自分の個性を最大限に発揮できる世界であることを知って欲しいと思います。但し、個性を発揮するには、基礎的な素養の積み上げが不可欠であることは忘れてはなりません。

  自分の興味を自分のスタイルで追及してみたいと思ったら、基礎研究に挑戦してみましょう。

 

  私は農学部3年生の体外受精の実習で、生命の始まりに触れ、ただただ感動し、自然と研究者になっていました。

  研究というものは、一言でいうと『たのくるしい』んです。楽しいけど苦しい、だけど楽しい。これは表裏一体で、苦しくないと楽しくない。苦労して得られた結果はやはり嬉しいです。 日頃、思い通りの結果はほとんど出ません。それでも、各々の結果を考察し繰り返すうちにひとつの真実が見えてきます。なかなか思い至らなかったことについに辿り着けた時は、とても高揚します。 『人間は浅はかだ』とも思いますし、真理の奥深さに感銘を受けることもあります。

  基礎研究の面白さは、いい意味で『何の役に立つか分からない』ことだと思います。まさに瓢箪から駒のような、意外で無限の可能性を秘めています。現代医学の限界を押し上げ、突破口を開くには、 基本的メカニズムの解明、基礎研究の積み重ねが必要となります。研究を続けてきた現在になって、私の研究と社会とのつながりを意識するようになり、貢献したいと思うようになりました。

  自分の心と向き合い、心の声をよく聞いて、もし興味を感じたら、ぜひ基礎医学研究者の感動を味わってください。

 

 

 

 

  私の研究では、生物の体が形作られる原理を『応用数学』という道具を用いて解明することに取り組んでいます。医学と数理学分野の融合。私が大学院生の頃はこのような研究を行っている研究室はありませんでした。

  研究者として楽しみは、『理解がおりてくる瞬間』です。私は、研究に必要だが理解出来ない問題を、数ヶ月も、数年も頭の中で『飼っている』ことがあります。多くの数学者と議論を重ね、ある時、するすると色々なことがつながり、今まで理解できなかった理由がわからないくらいに自然と理解が出来る。こんな瞬間を純粋に楽しいと思います。

  また研究を介して、一見関係なさそうに思われる事象がつながることも面白いと思います。私の研究室で取り組んだ頭蓋骨の骨の継ぎ目の湾曲構造形成についての数理モデルが、最近になって植物の葉の裏の表皮細胞の細胞壁の湾曲構造の形成にそのまま使えることが判明しました。スケールも種も全く違うのですが、それが数理モデルを介してつながるのです。

  この形づくりの原理の解明は、先天異常の形成メカニズムの解明や、再生医療における組織構造の構築に貢献できる可能性を秘めています。

  既存の価値観や手法にとらわれず、自分の考えや知的好奇心を満たすことが研究者の世界では実現することができます。ぜひ自分の力を試してみてください。

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[生命科学科 教授からのメッセージ] http://www.biomed.med.kyushu-u.ac.jp/message/