学生生活

2022年08月08日

専攻教育

令和4年度研究室配属(3年生)

  九州大学医学部医学科および生命科学科では、3年次に実際の研究室に配属し、研究生活を経験する実習「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、研究の醍醐味や重要性を認識するとともに、将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚、倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上を目指すことを目的としています。

  本年度、研究室配属を終えた6名の学生の感想文をご紹介します。

研究室配属感想文

医学部 医学科3 年 石村 優月

  今回の研究室配属において、私はプレシジョン医療学分野の研究室にお世話になりました。プレシジョンには精密などの意味があり、プレシジョン医療は一人ひとりにあった医療を施すことを目的とした分野になります。プレシジョン医療学の研究室では主に、遺伝子異常を背景とするがんに対して遺伝子編集技術を用いてアプローチする手法が研究されていて、私もその一部について学ぶことができました。

  配属期間中、私はBase edit という遺伝子編集技術を用いた実験やBase edit に関する論文の抄読などを行いました。Base edit とは、DNA の特定の配列に二本鎖切断を起こして塩基の欠失や挿入を狙うCRISPR-Cas9 を少し変化させたような遺伝子編集方法で、特定の配列中の塩基一つを変換することができます。例えば、特定の配列中のシトシンとグアニンに変えるといったことができます。これを用いれば、Base edit に必要なBase Editor や標的配列などをコードしたプラスミドを作成してウイルスに導入し、細胞内で塩基編集をさせることも可能になります。この遺伝子編集技術によって、難治性の遺伝子疾患を治療できるようにしようというのが一つの大きな研究テーマとなっています。私は遺伝性白血病症候群の原因遺伝子として考えられているある遺伝子に対してBase edit を行い、その変換効率を調べるという研究に携わりました。その過程でプラスミドの設計・作成、サンガーシーケンスなどを行い、基礎的な手技についても学ぶことができました。

  また、論文抄読では臨床応用に近いBase edit についての論文を読みました。知らない専門用語が多々あり、内容も難しいため読解に苦労しましたが、遺伝子編集についてより理解を深めることができました。論文を一つ読み切れたという自信にもなったので、これから興味がある分野について積極的に論文を読んでいきたいと思います。

  実験や論文抄読の他にも、他の研究室の先生の講義を聞く機会や大学院生の方とお話しする機会もあり、自分の将来についても様々な選択肢を考えられるようになりました。臨床に携わりながら研究をする先生も多くいて、私も日々学びを重ねながら自分のやりたいことに貪欲にチャレンジしていきたいと思います。

  最後になりますが、お忙しい中、丁寧なご指導をしてくださった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。温かく迎えてくださり、楽しく活動することができました。本当にありがとうございました。


研究室配属感想文

医学部 医学科3 年  上平彩夏

  私は今年度の研究室配属において循環器外科学分野にお世話になりました。生体で最も重要と言える心臓を扱う研究はどのようなものか興味を持ち、こちらの研究室を希望させていただきました。

私は英語の医学論文として「ラットモデルにおいて人工心肺が肺の虚血再灌流後に肺の血管内皮障害を増加させる」というテーマの論文を読解しました。初めて医学論文を読むということもあり、最初は論文の読み方が全く分かりませんでした。しかし担当の先生にご指導いただいたことで、まずAbstractという論文の概要を理解して、その後Figureという実験に関する図や実験データ、Discussionという実験から得られる考察を詳しく読み進めていけば良いことが分かりました。そして、読み進める際に少しでも疑問を抱いた場合は自分で調べ、また分からない場合は担当の先生に伺って、なんとか自分なりに整理し読解することができました。論文の中では、サイトカインの上昇度合いを時間やラット群ごとに比較したり、肺組織を免疫組織化学染色した実験結果が示されたりしていて、免疫学や病理学といった個々に学習した内容が互いに関連を持ち、どういう場面で使われるのか知ることができました。 最終的には抄読会や教授総括にてそれぞれの医学論文について内容をまとめて発表する場が設けられていました。自分以外の発表を聴くことで複数の医学論文に触れて、心臓と他の臓器との関わりは密接なためその心臓疾患は多様であること、日本と海外の文化の違いが特定の疾患や手術数の違いに影響していることなど、様々に学ぶことがあり非常に興味深かったです。

また、配属期間中は課題論文のテーマに類似した動物実験の見学も行いました。当研究室では心臓疾患の研究を扱うため、人間の動態に近いブタやウサギといった比較的大型の動物を用いた実験を行っていました。私が見学を行ったブタモデルの実験では、ブタを麻酔するところから参加しましたが、麻酔は少々苦戦し、動物を扱うことの難しさを感じるとともに、その命の尊さも感じました。 この実験は、「人工心肺中に片肺換気を行ったときに、虚脱した肺の虚血再灌流障害がどうなるか」という疑問点を掲げて行いました。今回はECMO回路を使用しましたが、取り付けるのに数時間かかるほど大変で、取り付けてからも血栓ができたら心臓が止まる可能性があるのでモニターを随時確認し、何か起きたら冷静に対処するという予断を許さない状況でした。実際の手術現場に居合わせた感じがして少し緊張したのを覚えています。 この実験については、実験後に肺組織を染色してその障害度合いを見たり、ウエスタンブロッティング法で特定のタンパク質を検出したりするため、配属期間中に実験結果まで行き着くことができませんでしたが、課題論文の内容を踏まえて、こういう障害が出るのではないかと推測することができました。一つの研究だけでも非常に時間がかかり大変なことですが、日々の医療の発展に一つ一つの研究が貢献していることを実感しました。

以上のように、4週間ほどですが医学研究に関わることができ、貴重な経験となりました。

最後になりますが、お忙しい中、丁寧にご指導して下さった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。


研究室配属感想文

医学部 医学科3 年 小栁文乃

  今回の研究室配属で、私は神経内科学分野に配属させていただきました。この教室では、多発性硬化症という原因不明の中枢神経系における炎症性脱髄性疾患について、その免疫動態に着目して末しょう血単核細胞の解析などを行っています。配属期間中は、末しょう血単核細胞の動態をフローサイトメトリー法で解析して、健常者と患者別に統計をとって比較し、それをスライドにまとめて発表するという、研究の一連の流れを体験しました。

  フローサイトメトリーの実験は、知識も経験もない状態から始まりました。ピペッティングするだけで泡立ってしまうなど失敗することも多かったですが、一つ一つ丁寧にご指導いただいたおかげで、練習するごとにきれいなデータを得られるようになったと思います。ここで得たデータをソフトで解析して結果を出しました。ソフトでの解析は、調べたい細胞の部分をひたすらゲーティングするという地道な作業でしたが、最後に統計をとって健常者と患者間で免疫動態に違いが見られた時は達成感がありました。

  また、抄読会で発表するためや、今回得られた結果について考察するために、何本か英語の論文を読みました。論文の構成から教えていただいたので、なんとか一通り読むことは出来ましたが、単語だけ追ってしまって本質を分かっていないことが多く、知識不足や英語力のなさを痛感しました。また、何本か論文を読んだだけでも論文によって真逆の結果が書いてあることがあり、多発性硬化症はまだわかっていないことも多いのではないかと、難病の研究の奥深さを少しだけ垣間見ることもできました。

  この他にも、研究室で行われている免疫染色やWestern blottingなどのほかの実験や、病院での検査・教授回診を見学させていただいたり、教室の先生方から臨床の現場や、研究の楽しさ・大変な点、大学院生の生活についてなど様々なお話をお聞きしたりしました。一番印象に残っているのは多発性硬化症研究チームのミーティングを見学させていただいたことです。診断が難しく根治療法が未だ存在しない難病に、先生方が白熱した議論をして立ち向かっている姿を間近に見て、憧れを抱きました。基礎の授業が終わって臨床の授業がもうすぐ始まるというこのタイミングでこのような体験ができたので、今後の勉強のモチベーションも上がり、自分の医者としてのキャリアプランや将来像をより具体的に考える良いきっかけとなりました。

  私たちは入学時から、一部の実習を除いてオンライン授業が続いている中、研究室配属を毎日対面で実施していただき、多くのことを学ぶ機会を頂けて、感謝の気持ちでいっぱいです。4週間、お忙しい中ご指導くださった渡邉先生、実験を教えてくださった松尾さん、原田先生、田中先生をはじめ、温かく受け入れてくださった研究室の皆様、ありがとうございました。

  • フローサイトメトリーの解析例

    フローサイトメトリーの解析例

  • ミクログリアを染色したマウスの脊髄

    ミクログリアを染色したマウスの脊髄

  • 蛍光顕微鏡で観察している様子

    蛍光顕微鏡で観察している様子


研究室配属感想文

医学部 医学科3 年 中山 元気

 

  今年度の研究室配属において、基盤幹細胞学分野に配属させていただきました。研究室では主に神経幹細胞のエピジェネティクスを扱っており、自分はレトロトランスポゾンに関する研究に参加しました。レトロトランスポゾンとは、ゲノム内に存在し、mRNAに転写された後、逆転写酵素によってゲノムの別の場所に挿入される因子であり、多様性を生み出したり疾患の原因になったりします。普段聞かない内容だったので、この研究を希望しました。

  研究室は10時から17時ほどまで滞在していました。1週目はマウスの解剖から免疫染色までの流れを実際に体験しながら学びました。進行はそこまで早くなかったので、一つ一つ理解しながら進めていくことができました。地道で細かな作業が多く、意外に大変でしたが、どれも適切な結果につながる過程であると実感しました。今までプレゼン等に出てくる免疫染色の画像を見てもぼんやりとしか把握できなかったのに対して、この経験によって結果の理解度が大きく向上し、その後の論文読解にも大いに役立つことができたと思います。2週目以降は、論文を読み進めていくと同時に、現在行っている研究に携わらせていただきました。論文読解について、最初は論文の分量に圧倒されました。しかし、実際に読み進めていくと丁寧に結果が書かれており、データの見方や実験の原理を先生方に解説していただいたおかげで、最後まで読み進めることができました。いちいち和訳しながら読み進めたので、かなり時間がかかり、英語力を磨く必要があると思い知らされました。研究の方は背景知識や実験手法など知らないことが多く、知識の習得に精一杯で、結果に対して自分でさらに考察することがあまりできなかったので、その点が惜しいと思いました。

  最終日に、論文発表と研究発表を行いました。事前に原稿を用意して練習したおかげで、スムーズに発表できたと思います。一方、先生方の指摘から、単に結果を言うだけでは不十分で、なぜその実験をする必要があるのか、データから結果へと論理的に導くができるのか、その結果に対してどのような展望が見られるのかを説明する必要があることを実感しました。これらを追っていくことは、自分は今後何を研究したらよいかを考えるきっかけにもなります。研究分野の知識だけでなく研究の考え方も大変勉強になりました。

  最後になりますが、お忙しい中受け入れてくださった先生方に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

研究室配属(3年)感想文

医学部生命科学科3年 伊藤 鈴華

  私は今回の研究室配属で生体医学研究所・アレルギー防御学分野にお世話になりました。もともと精神疾患や神経疾患に興味があり、それに対して免疫学の分野からアプローチするという研究方針に惹かれ、この研究室を希望しました。

  配属期間中、私はアルツハイマー病と好中球の関連について研究しました。去年台湾で行われたコホート研究から、炎症性腸疾患の患者群はそうでない人々よりも認知症になる確率が高いという結果を得ました。そこから、腸炎とアルツハイマー病の関連について脳内免疫細胞を解析することでアミロイドβの蓄積のメカニズムを解明するという指針のもと研究を行いました。具体的には、アルツハイマー病モデルマウスに腸炎を誘導して、脳内のアミロイドβに対する好中球の局在を調べたり、今まで急性腸炎しか研究されていなかったため慢性腸炎でのアミロイドβの蓄積を見たり、脳脊髄液で好中球を除去するとアミロイドβの蓄積はどうなるかなどを調べました。免疫染色やFACSなど授業や教科書などで聞いたことがある実験をできて、非常に勉強になりました。同時に研究の基礎基本も習うことができたので、これからの実習にも役立てたいです。

  また、初めて英語論文の抄読を行いました。英語を読むのはもちろん、Figureの要点を理解するのも難しかったです。研究室の皆様は私が質問をすると、私のためになるよう答えではなくヒントを与えてくださったため、自分の頭で考え、深く理解することができました。しかし、論文発表ではたくさん課題も残りました。例えば、発表に対する質疑に十分に答えることができなかったり、自分なりの考察ができなかったりしたことです。これから、まず免疫学についての知識を増やし、たくさんの論文を読んで、より深く論文を理解し、考察や研究への新しいアイデアなどその先へつなぐことができるようになりたいと思います。

  最後になりますが、お忙しい中、優しく丁寧にご指導してくださった伊藤美菜子先生をはじめ研究室の皆様に心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

  • 研究の様子

    研究の様子

  • 研究の様子

    研究の様子

  • 研究の皆さんと

    研究の皆さんと


研究室配属感想文

医学部生命科学科3年 中村 美咲

  今回の研究室配属で、私は免疫ゲノム生物学分野の研究室でお世話になりました。1月の生命医科学研究入門の授業で、馬場先生の講義を聴き、日々私たちの身体を守ってくれている防御機構である一方、アレルギーや自己免疫疾患などの要因にもなる免疫のことについて興味を持ち、特にB細胞をメインに扱っている、免疫ゲノム生物学分野への配属を希望しました。

  期間中、私は若いマウスと老齢マウス分画の比較をメインで行いました。新型コロナウイルスの影響もあり、1、2年生では実習が中止になったり、オンライン実施になったりしていたこともあって、実験することに不安もありました。しかし、研究室のみなさんにとても丁寧に教えていただけたおかげで、自分たちで操作をして実験することができ、より内容の理解が深まりました。マウスを触る実験をすることも今回がほとんど初めてだったので、初めは少し緊張していましたが、何度か練習させて頂き、最後には慣れて自分で臓器の摘出なども出来るようになりました。

  今回の配属では、実験をするだけでなく、その結果を解析してデータとして出す方法も教わり、実際に自分で実験したデータをまとめました。どのようにまとめれば正しいデータとして認められるのか、また誰にでも分かりやすいデータになるのかなど、今まで気にすることが無かったことについて教えていただき、研究とは実験をするだけではなく、その先のデータの扱い方が重要であるということを実感しました。

  また、配属期間中には、実験と平行して免疫学分野の論文の読解も行い、最終日に行われた抄読会で、研究室の皆さんの前で論文の内容を発表しました。英語論文を読み、人に紹介するためにまとめる、という経験は初めてだったので、最初は苦戦しました。しかし、少しずつ実験手法などを調べながら読むと、自分でも論文の内容を説明出来るようになり、英語論文へのハードルが下がったのでよかったです。それでも実際に発表してみると、研究室の方々から、自分で読んでいるときには気付かなかったことについてたくさん質問を受け、論文の批判的な読み方の難しさを感じました。論文においては結果だけでなく、その結果を導いた方法や、結果の評価方法も重要であることを学んだので、今後論文を読む際には気を付けていきたいです。

  最後に、お忙しい中実験だけではなく、データの解析やまとめ方、論文の読解まで、幅広く指導してくださった研究室の皆様、本当にありがとうございました。

  • 研究の様子

    研究の様子

  • 研究の様子

    研究の様子

  • 研究室の皆さんと

    研究室の皆さんと


研究室配属感想文

医学部生命科学科 渡邉 紗羽

  今回の配属で、私は細菌学分野にお世話になりました。私が頂いたテーマは、Helicobacter. cinaediという細菌がコードする有毒なタンパク質についての研究でした。H. cinaediはグラム陰性菌に属していて、分泌装置からエフェクタータンパク質(有害タンパク質)を分泌することが知られてます。このエフェクタータンパク質を外部に分泌することで、宿主や競争相手の細菌を攻撃するのです。今回の研究では、そのエフェクターについて、遺伝子のどの部分にコードされていて、具体的にどのような働きを持つかについて調べました。

  今回の配属は、人生で初めて本格的な医学基礎研究に携われる機会ということで、始まる前からとても楽しみでした。私はもとから細菌学に興味があったわけではなく、基礎の実験操作が多く学べそうなところ、という観点で細菌学分野を選びました。実際に、研究室ではアガロースゲル電気泳動、PCR増幅、形質転換(ヒートショックとエレクトロポレーション)、DNA抽出やプラスミド抽出、DNAの超音波破砕などをさせていただきました。毎日忙しく、自分の不足を実感してばかりでしたが、同時に新しいことを知る喜びが多くありました。また、実際に研究を始めてみると、テーマ自体にも興味がわいてきて、「cinaediという菌が、生きるためにどんな方法を使っているのか。有毒物質は、実際にどのように働くのか。」と考えながら意欲的に研究に取り組むことが出来ました。この4週間では、まだこの研究の終わりは見えていません。まだ実験を続けていきますが、これからどんな結果が出てくるか、とても楽しみです。

  最後になりますが、配属を受け入れてくださった林先生、指導してくださった後藤先生、細菌学分野の皆様、本当にありがとうございました。夏休み期間も引き続きお世話になりますが、よろしくお願いします。

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