2025年09月01日
専攻教育
令和7年度 3年次研究室配属の感想文
九州大学医学部医学科および生命科学科では、「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、3年次に研究室への短期配属を行い、研究チームの一員として働くことにより、研究生活を実際に経験するというものです。
実習研究室配属の大きな目的は、研究の醍醐味や重要性を認識すること、そして将来研究に携わる際に必要になる、研究者としての自覚、倫理観や、研究室での基本的な知識やルールを、早期から身につけておくことです。また、協働的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲を向上させることを目指しています。
本年度研究室配属を終えた学生の感想文をご紹介します。
今回の研究室配属で、私は神経解剖学分野でお世話になりました。神経解剖学教室は脳と心を理解するために様々な精神障害の研究を行っています。配属期間中、私はアトピー性皮膚炎とストレスによって引き起こされる抑うつ状態と、ゲニステインに関する研究を行い、実習最終日にスライドを用いた発表を行いました。
アトピー性皮膚炎の患者さんはうつ病を発症しやすい傾向があり、それにより患者さんの生活の質を下げることが報告されています。ゲニステインは大豆に含まれているイソフラボンの一種です。エストロゲン受容体 beta (ERβ) という受容体に結合し、アトピー性皮膚炎とストレスによって引き起こされる不安様行動を軽減することが分かっています。今回はこのゲニステインの作用機転を調べることを目的として、研究を行いました。
今回の実習では、主に ImageJ を用いた画像解析、マウスの注射と行動実験を行いました。画像解析では計測したい細胞を一つひとつ囲み、輝度を測ることで ERβ の発現量の違いを調べました。解析を行っている間は途方もない作業に感じられましたが、自分自身で計測した結果が得られると達成感がありました。行動実験では、マウスのモデルを作成後、記憶をテストする恐怖条件付けや、不安様行動を評価する強制水泳試験、高架式十字迷路試験などを行いました。結果としては、今回のマウスのモデル間においてあまり違いが見られませんでした。行動実験では個体数が少ないことや、注射を行う際の手技によって個体差が出やすいそうです。そのため、より多くのデータを得るために、今回行ったマウスのモデル作成から行動実験までを繰り返す必要性があります。これらの実験の他にも、免疫染色、マウスの固定や脳出しについて教えていただきました。どの手技も初めてやることばかりで慣れなかったのですが、丁寧に指導していただきました。はじめはマウスの首をつかむのにも手間取っていた注射も、一人でスムーズにできるようになり成長を感じることができました。
また、毎週金曜日にはカンデルの輪読会がありました。先生方や大学院生の方々の意見を聞くことによって、自分が持っていなかった視点でその論文に向き合い、より理解を深めることができました。今まで私は論文に触れることがなかったので、よい経験になったと思います。
最後になりますが、お忙しい中、ご指導していただいた先生、大学院生、技術職員の方々など、研究室の皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

今年度の研究室配属において、私は生体防御医学研究所・粘膜防御学分野にお世話になりました。この研究室では、主に腸管に存在し自然免疫に関わる3型自然リンパ球(ILC3)を中心にマクロファージなどの他の免疫細胞や線維芽細胞などの間質細胞が免疫細胞に及ぼす影響について研究を行っています。私は食事や脳腸連関などに興味があったため、この研究室を希望しました。
実習は、担当してくださる先生・大学院生につき、その方の研究テーマを軸に様々な実験手技や解析方法を学ぶ形で行われました。私を担当してくださった方は腸管のマクロファージを主な研究対象としている方だったので、マクロファージに関する内容を中心に実習しました。この研究室では蛍光活性化セルソーティング(FACS)を中心に実験が行われています。期間中はマウスの解剖、細胞調整、免疫染色、そして FACS 解析の一連の実験を週に1度させていただき、その他にも PCR、電気泳動、ベクター伝達、Seurat による scRNAseq 解析などを体験させていただきました。覚えることが多かったり、難しい手技もあったりと大変でしたが、懇切丁寧に教えて頂き、回数を重ねていく中で各手順や注意点の意義を理解することができました。実習期間中、朝から晩まで付きっきりで指導して頂き、とても充実した毎日を過ごさせて頂きました。ありがとうございました。
また、配属期間中は実験と並行して与えられた論文を読み進め、実習最終日の論文紹介に備えました。私の論文は高脂肪食が腸内免疫に与える短期的な影響についてのもので、私が興味ある内容のものにして頂きました。多彩な実験手法とそのデータの読み取りに時間がかかりましたが、先生から手助けを頂きながら一つ一つ理解することができました。また、実習最終日にはそれぞれの課題の論文紹介が行われました。
その他にも実習期間中に、たくさんの先生方から「各研究の実社会における意義を常に意識すること」、「複数の観点から物事を見つめ、論じ、示すこと」など色々なアドバイスを頂きました。この実習を通して、自身がこれから先どのような意識を持って医療人として生きるのかを見つめ直して、この先に進まなければと感じました。
最後になりますが、お忙しい中丁寧に指導してくださいました研究室の皆様方に心より厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

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私は今回の研究室配属においてアレルギー防御学分野で1か月間お世話になりました。当研究室では脳梗塞、多発性硬化症、アルツハイマー病、自閉スペクトラム症といった様々な中枢神経系疾患における免疫細胞の働きについて研究を行っています。私はもともと自閉スペクトラム症の発症メカニズムについて興味があったため、当研究室への配属を希望しました。
今回、私は「MIA マウスを用いた ILC2 の自閉スペクトラム症 (ASD) への意義の解明」、「脳梗塞の治療に応用できる Treg の開発」という2つのテーマについての研究に携わらせていただきました。
脳の髄膜に存在する ILC2 は、幼少期にサイトカイン IL-13 を産生することで脳の発達に重要な介在ニューロンによる抑制性シナプス形成を促進します。一方で、ASD マウスにおいては ILC2 が増加していることが示唆されています。母体炎症活性化モデルマウスは ASD 様行動を呈し、また脳の ILC2 が増加することがすでに分かっています。そこで今回は2週齢、4週齢のマウスを用いて、どの段階で MIA マウスの脳において ILC2 が増加するかを調べました。マウスの脳を取り出して細胞を抽出して免疫染色し、FACS 解析を行いました。結果として2週齢のマウスでは ILC2 は増加せず、4週齢では有意に増加していました。脳の取り出しに最初は苦戦しましたが、数をこなすとスムーズにできるようになって嬉しかったです。担当の横田さんは染色に使う抗体や機械についても丁寧に教えてくださり、忙しい中でも様子を近くで見守ってアドバイスしていただきました。
Treg (制御性T細胞) は普段は脳にあまりいませんが、脳梗塞が起こると梗塞巣に浸潤し、慢性期の脳梗塞回復に寄与することがわかってきています。当研究室の松井先生はこれを治療に応用するべく、脳に素早く浸潤する Treg の開発をされています。今回の実験では、この Treg を移入したマウスに人為的に脳梗塞を誘発し、Treg が3日後に浸潤しているか調べました。脳梗塞は Photothrombosis という、レーザー光によって血液を凝固させ、血管を詰まらせるという手法を用いて誘発しました。マウスの頭蓋骨を露出させレーザーを当て、縫い合わせるという一連の流れを任せていただき、緊張しながら手技を行ったのを覚えています。うまくできているか分からず不安でしたが、3日後脳を取り出すと梗塞巣が内出血をおこして赤くなっており、うまくいったことがわかり安心しました。その後FACS解析を行ったところ、脳における移入 Treg の増加が確認されました。松井先生はいつも明るく話しかけてくださって、私の様々な疑問に丁寧に答えてくださりました。
右も左もわからないような未熟な私を暖かく受け入れ、指導してくださった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。研究室はいつも和やかな雰囲気で、本当に楽しく充実した活動をすることができました。ありがとうございました。



私は研究室配属において、生体機能学分野で約1か月間お世話になりました。この教室では、細胞内で起こる大規模な分解現象、その詳細なメカニズムや関連疾患の治療法についての研究を行っています。またゼブラフィッシュという小型魚類をモデル動物として用いているのも特徴で、マウスなど他の実験動物とは異なる実験法や観察を行うことができます。
一か月間にわたり行った研究の目的は、ゼブラフィッシュ水晶体内に存在する mRNA の寿命の可視化です。水晶体の線維細胞では分化に伴い分解現象が見られますが、その時水晶体特異的な mRNA は非特異的な mRNA より安定性が高く分解されにくいという仮説を検証しました。cDNA の一部を観察に適したものに付け替えるコンストラクションや、そこから mRNA を PCR や転写で精製する必要があり、それらを自分で行う中で分子生物学的手法の基礎を学び実践することができました。さらに、得られた mRNA を受精卵にインジェクションする操作も行いましたが、器用さと慣れが必要な作業であるため自分にはとても難しく、何十個もこなしている研究室の方々を見て驚くばかりでした。
また配属期間では毎日の実験のほか、研究室内で週1回行われるミーティングにも参加しました。研究内容や論文抄読等の発表と、それに続く質問が主な内容です。先生方や先輩方の研究自分の初歩的な質問にも丁寧に答えて下さりと、今後の学生生活に活かせるような貴重な経験を得ることができたと感じています。
この実験や抄読会を行う中で最も実感したのは、出会う用語や現象を表面的に受け止めるだけでなく、「なぜこのようなことが起こるのだろう」「これはどういう意味だろう」といった疑問を持ち続けることの重要性です。どんなに初歩的でも、あるいは一見実験と関係のなさそうなことであっても、浮かんだ疑問を大切にする姿勢が研究者に欠かせないことを学びました。実験を行う中で PCR、制限酵素、形質転換、分光光度計といった用語が何度も登場します。これらは過去の講義で聞いたことのある単語であり、自分もおおよそ理解しているつもりでした。しかし実験で問題が発生したときに、そもそも正常に進行したときに何がどのような反応を起こしているのかまでは理解できておらず、何が間違っているのか見当もつきませんでした。この経験を通じて、自分が「理解しているつもり」になっていた内容は、実際には説明文を暗記していただけで、本質的なところまで見ていなかったことに気が付きました。現在は表面的な理解にとどまらず、用語の意味を咀嚼して、背後にある原理を追い続けることを意識しています。
研究室の皆様のおかげで気づきと学びにあふれた、密度の高い一か月を過ごすことができました。お忙しい中丁寧に指導していただき、本当にありがとうございました。
竹井蓮大郎
私は、今回の研究室配属で、小児外科学分野を選択しました。2年生末の研究室紹介にて、外科分野に興味を持っていた私は、小児外科医の「脳・心臓を除くほぼすべての臓器について学習できる!」という学習範囲の広さに、強く魅力を感じました。志望した結果、今回配属させていただき、感謝の気持ちでいっぱいでした。研究室配属では、毎日が刺激的で、新たな学びの連続でした。
今回経験させていただいたことの中で、主に印象に残ったことは以下の3つでした。
①研究
研究では、小児がんに関する研究や実験の基本手技を経験させていただきました。チューブに微小量の試薬の投入を反復する中で徐々に混乱が生じてきて、危うく間違えそうになりドキッとしました。また、各操作の際には、実験環境を清潔に維持するために、1動作するにもどこを触ってもよいのか、何に気を付けなければならないのかを、厳密に注意しなければならなく、とても大変でした。このような作業を丁寧に、正確に行っていくからこそ、実際に多くの人の役に立つような研究成果につながるのではないだろうかと感じました。
②抄読会
最新の論文の内容を紹介する抄読会にて、論文の重要性を学習しました。今回、私も紹介するために、小児がんに関する英語の論文を読んだのですが、理解をするまでが難しく必死でした。しかし、論文を読むことがゴールではなく、論文を通じて、新たに気づきを得て、今後どのように実際の医療に応用させていくのかが大切であるということを、発表を通じて、先生からコメントをいただき、改めて感じました。論文から学びを得て、深く吸収することができるように、英語力・知識等をレベルアップしていこうと思いました。
③臨床カンファレンス
想像していたものと異なり、発言し難いような重苦しさは全くなく、先生方が忖度なく意見交換しあっている様子であり、感銘を受けました。これが患者さん方に質の高く安全な医療を提供することができるカンファレンスなのだと実感することができ、非常に有意義な時間でした。
臨床面では、先生方が、一人一人の小児の患者さんの命を救っていこうと、心から寄り添い懸命に動く姿を拝見して、胸が熱くなりました。また研究面では、未来の子どもたちのために様々な研究が行われていることを学び、その大切さを身に染みて感じました。生命の尊さ、小児外科医の使命を強く実感することができる1か月でした。
小児外科の先生方、お忙しい中様々なことをご指導いただき、本当にありがとうございました。これからも日々精進していきます!
研究室成果発表会時
実験時
僕はウイルス学分野の福原研究室で学びました。福原研究室では、肝炎ウイルス、コロナウイルス、デングウイルスなどのウイルスを扱っています。福原研究室の強みは、CPER 法を用いて RNA ウイルスを人工的に合成できることです。この技術を活用することで、RNA ウイルスの遺伝子に意図的に変異を加え、その遺伝子の機能を解析するというようなことが可能になります。
配属期間中は、まずウイルス研究に必要な基礎的な実験に取り組みました。具体的には、免疫染色や細胞の継代、RNA 抽出などをしました。その後、デングウイルスの人工合成にも挑戦しました。この人工合成は研究初心者の僕にとっては長い道のりで、失敗の連続でしたが、多くの気づきを得られました。実験以外にも、論文を読んだり、ラボミーティングに参加したりしました。
実験に取り組んでいて感じたのは、本当に失敗ばかりだということです。デングウイルスのゲノム断片を増幅していた時、コンタミが発生してことがありました。自分なりに原因を考え、再度やり直してみても失敗しました。最終的に実験に使っていた試薬を刷新することで、コンタミを無くすことができました。何度も失敗した分、成功した時にはそれまでの苦労が報われるほどの喜びがありました。やはり実験が上手くいくには時間がかかるので、研究を続けていくには試行錯誤を楽しむが必要だと感じました。そのためには、実験の内容を深く理解することが大切だと考えます。研究室に配属されたばかりの頃は、実験の原理や目的がよく分からなかったため、頭が追いつかず楽しめていませんでした。しかし、実験に取り組み続けるうちに理解が進み、実験の全体像と自分の現在地を把握できるようになってからは、楽しめるようになりました。加えて、失敗してもその原因を論理的に考察できるようになり、実験そのものだけでなく、研究者らしく思考することの面白さも実感しました。ただし、論文を読むのは正直辛くて、ついつい実験に逃げてしまうのでそこは直さないといけません。ところで、この感想文を読んでいる皆さんは器用さに自信があるでしょうか。僕はどちらかというと、不器用な方です。ある時これをやれば器用さが目に見えてわかるという実験をやってみたのですが、指導教員との実験精度の差が大きかったです。やっている操作は同じはずなのに、手技の違いでここまで違いが出るのかと驚きました。それからというもの、とにかく正確さ重視で実験に取り組んでいます。担当教員によると、博士号を取得するまでは修行だということで、焦らずに時間がかけて上達していきたいと思います。
最後に、福原教授、ご指導下さった田村先生、気に掛けてくださった大学院生や技術員の方々に心より感謝申し上げます。

