教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医学を志されたのはいつ頃ですか。

 強く医学部への入学の希望を持っていたわけではないのですが、医師で大学教授であった父の影響もあり、自然に医学部へ進学しました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 私は京都大学の医学部に入学したのですが、入学してからの3年間は部活で弓道に打ち込んでいました。朝から晩まで練習に励んだのですが上達はしませんでした。努力と成果は必ずしも比例するわけではないんですね。体育会系の部活に入部したことで、受験後の浮かれた気持ちが引き締まり、そして挫折を経験出来たことが、後の人生で良い影響をもたらしたと思います。


 

学部学生時代のときの研究経験についてお聞かせください。

 私が学んだ時代の京都大学では、4年次に自主研究期間が設けられていました。2ヶ月の期間、希望する研究室に所属して研究を行ってもいいし、何もしなくてもよい期間です。私は解剖学の教室でヒトの胎児の連続切片の立体構築を行いました。当時、解剖学教室では大量のヒト胎児の連続切片を所有していました。しかし、連続切片だけでは立体的な構造が理解しづらいため、医療情報部に技術協力をお願いして、NIH Imageというパブリックドメインソフト(今のImageJ)を使用して立体的に可視化することに取り組んでいました。自主研究期間でそれに携らわせてもらい、日本語ではありますが、一人で論文を書き上げました。これが研究を面白いと思った初めての経験であり、自分の興味を持ったことについて自主性を持って取り組む姿勢を学びました。 画像処理技術なども身に付き、後の自分を方向付ける貴重な経験をさせて頂きました。
 

臨床医を目指さずに基礎研究者を選択された理由をお聞かせください。

 学部学生時代には、はっきりと臨床医を目指す、研究者を目指すという目標を持って過ごしていたわけではなく、研究も臨床も学んでみてだんだんと道が決まってきたように思います。

 4年生の自主研究期間の後、5,6年での臨床実習では真剣に授業、実習に取り組みました。しかし、周りのみんなと同じ熱量で医師としての使命感を感じることが出来ず、いつしか「臨床は今しかやらないから真剣に取りくもう。」という気持ちを持つようになりました。サイエンスのことを考えている方が自分に向いていたのでしょうね。そうしたこともあり、私は卒業後、臨床医としての研修は受けず、そのまま大学院に進学をしました。私の時代では、基礎研究者として従事していくのに医師免許は求められてはいなかったのですが、医師免許も取得しました。臨床実習と同じく「先でやらないから今は真剣に取り組もう」という気持ちでした。

先生の研究について簡単に教えてください。

 私の研究では、生物の体が形作られる原理を応用数学という道具を用いて解明していこうとしています。大まかな話でいうと、生物の体でおこる現象を数式で表し、実験操作でおこる変化を予測、実験によりその検証を行います。この形づくりの原理の解明は、先天異常の形成メカニズムの解明や、再生医療における組織構造の構築に貢献できる可能性があります。

 このような研究の面白い側面として、関連のなさそうな分野同士がつながることがあります。以前に私の研究室で頭蓋骨の骨の継ぎ目の湾曲構造形成について数理モデル化したのですが、それが最近になって植物の葉の裏の表皮細胞の細胞壁の湾曲構造の形成にそのまま使えることがわかりました。空間スケールも種も全く違うのですが、それが数理モデルを介してつながることがあるんですね。
 

現在の専門に進まれることを決められたのはいつ頃で、そのきっかけをお聞かせください。

 私の母は応用数学を学び医療機器の開発エンジニアとして働いており、我が家には手回し計算機やパンチカードなどが転がっていて、子供の頃のよい遊び道具でした。医学者である父と応用数学出身の母が今の専門に影響したのかもしれませんが、明確なきっかけはなく、学部生のときの研究経験や大学院で研究を行ったこと、英国での留学経験が現在につながっています。

 大学院での所属研究室を希望する際、私は研究室の指導方針等ではなく、私の積極性と自主性を持って取り組む姿勢を尊重してくださる先生を選びました。これは、学部生のときの自主研究期間での経験が影響していると思います。塩田浩平先生に師事させて頂いたのですが、塩田教授は全て学生の自主性に任せ、トラブルのあったときの最低限の保障はするというスタンスの先生でした。自由に研究に取り組ませて頂けて、大学院の4年間で手の骨格の形成に関して3本の論文を書きました。 卒業後、京都大学での2年間の助教を経て、日本学術振興会の海外特別研究員として、多細胞の形作りを行っている英国の研究室に留学をしました。英国では日本と慣習が違って、研究室では拘束時間が少ないのが印象的でした。その研究室では、稼動時間が少なくとも成果は出していましたので、トータルの稼動時間を延ばすのではなく、いかにコンディションの良い稼動できる時間を増やすか大事だと感じました。

 こうして、学部学生、大学院生のときに実験のテクニカルなことを学び、留学先のラボで数理の取り扱いを学び、現在の専門に結びついていったように感じます。
 

現在のやりがいをお聞かせください。

 私の今の目標は、この分野を確立していくことです。それには、この研究に従事する人を増やすことです。この生物の体でおきている現象を数理モデル化し、それを実験的に検証するという研究は、私が大学院生の頃は行っている人はほとんどいませんでした。現在幸いにして多くの優秀な学生さんに接する立場となりました。このような研究の面白さを彼らに伝えるのは非常にやりがいがあります。研究を進め論文を増やすということも当然ですが、この研究分野のステージ自体を作っていくということに重点をおいていきたいと思います。

 また、わからないことがわかっていく感覚も楽しく感じています。研究で必要だけれども理解できない問題を何ヶ月も(時によっても何年も)頭の中で飼っていることがあります。たくさんの数学者と議論を重ねていくうちに、ある日それが繋がって、なぜ今までそれが理解できなかったのか、その理由さえわからなくなる瞬間があります。そういったことを純粋に楽しんでいます。

 そして実験です。実験は9割方予想とおりの結果にはなりません。それが失敗なのかというとそうではなく、予想もしなかった結果から教えられることも多々あり、それは楽しいですし、逆に予想とおりの実験結果が得られたときに快感はものすごく、他に変えることの出来ない充足感を感じます。

 

学生さんにメッセージをお願いします。

 医学というのは懐の深い学問だと思います。普通に考えると臨床か基礎(なかでも分子生物学)を想像すると思うのですが、文系に近い精神科のような分野もあれば、私のように数学と取り入れた学問まで幅広く道が広がります。きっと適性に合う分野が見つかると思います。向いているかなということはあまり気にせず、興味があれば進学先の候補の一つにいれて頂きたいと思います。

 また、学生時代は家でじっとしているのではなく、勉学に限らず興味にあることにのめりこんでください。そうした経験が後に役にたつと思います。役にたつ経験といえば、旅行や読書などを思い描きがちですが、例えば友人と呑みにいったりだとか、色々なことが自分のスキルになると思います。自分を思い返せば、小学校時代にゲームをプログラミングしていたのですが、完全に遊びでした。進学したのは医学部で全く関連性がないように思っていたのですが、現在こうして結びつき私の研究の礎になっています。

三浦教授について

三浦 岳 教授
医学研究院 基礎医学部門 生体制御学講座 系統解剖学分野
趣味は読書。漫画も読まれるそうです。漫画は日本の現代社会がよく写しだされていると感じるとのこと。好きな漫画家は島本和彦先生。思考の転換をしたいときは、天神を散歩し、行き着けの喫茶店にノートパソコンを持ち込み仕事をすると良い気分転換になり進むのだそう。
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