教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医師を志されたのはいつ頃ですか。

 父が眼科開業医で、自然に小学校の高学年の頃には医師になろうと思っていました。患者さんが父に感謝する姿を見てきたのが大きかったのだと思います。
 

九州大学を選んだ理由を教えてください。

 私は鹿児島出身ですが、鹿児島からみた九州大学はとても魅力的でした。九州出身者にとって、地元に近い、"九州の雄"たる九州大学で勉強してみたいと感じる人は多いと思います。

 福岡の街も魅力的です。高校卒業後、多くの同郷の友人が東京へ出ましたので、私も1年間東京で浪人生活を送りました。翌年福岡に来たわけですが、東京と違って適度に自然があり、適度に都会で、食べ物もおいしく、博多弁も心地良い、そんな福岡が大好きになりました。

 

どのように学生時代を過ごされましたか。

 大学で一番印象に残っているのは、医学部部活で硬式テニスに打ち込んだことです。 4年生まで全学サークルの混声合唱団で頑張っていました。5年になったときに仲間が卒業していく中で寂しくなり、高校で硬式テニス部だったこともあり、無理やり頼み込んで医学部硬式テニス部に入れて頂きました。4年間のブランクを取り戻すべく、夢中になって取り組みました。その甲斐あって、6年生の九州・山口医科体育大会でレギュラーになることができました。その経験が今に活きているかどうかは不明ですが、少なくとも体力はつきました。眼科は患者さんも多いですし、手術も多い。医師は体力作りも重要です。
 

現在の専門に進まれることになったきっかけを教えてください。

 父の影響もあり、眼科は選択肢にあったのですが、医学部で学ぶうちに迷いが出てきました。「全身について学んだのだから、全身に関わる診療科に進むほうがよいのではないか?」と思い、眼科と産婦人科で進路を迷いました。なぜこの二択になったのか当時はわかりませんでしたが、見えるようになった患者さんとお産を経て我が子を抱くお母さん、心から喜ぶ姿が重なったのかも知れません。決断が一日違っていたら、産婦人科に進んでいたかもしれません。産婦人科・眼科に限らず、どの診療科も等しく重要でやりがいのあるものです。

研究経験について教えてください。

 卒業後、研修医として2年間従事した後、大学院博士課程へ進学しました。 診療では様々な患者さんと出会います。国の難病に指定されているベーチェット病患者さんが数多く失明していくのをみて、その治療につながる研究をしようと思いました。大学院では4年間生体防御医学研究所で野本亀久雄先生の元で免疫学の研究を行いました。学位を頂いた後、3年間米国ハーバード大学・スケペンス眼研究所へ留学しました。この7年間が私の基礎研究に没頭した期間になります。

 

留学についてお聞かせください。

 大学院に入学する前から漠然と、「人生経験として一度は留学してみたい」と思っていました。様々な研究室を調べ、ハーバード大学・スケペンス眼研究所Streilein先生の研究室の門を叩き、眼の免疫特権(炎症制御機構)研究チームに加えて頂きました。

  私は留学のために、英語論文を読むこと以外、スクールに通うなど英語に対して特別な準備はやっていませんでした。それでも留学先での仕事では不思議と支障ありませんでした。専門用語は論文で一通り頭に入っているし、場の流れから会話の内容を予測することができました。研究チームの戦力として溶け込み、充実した時間を過ごしました。留学で学んだ収穫は、「仕事に国の隔たりはなく、日本でいい仕事ができる人は海外へ行っても通用する」という至極当たり前のことでした。

 とは言っても仕事の場を離れると勝手が違いました。飲み会などでは何が話されるか予測不能で、みんなが盛り上がっている輪の中には入れないのです。難しい専門用語を使って仕事はできるのに、簡単な会話がわからない。滑稽ですが、英語の勉強不足がたたった部分です。

 言語は重要なコミュニケーションツールですが、それが全てでもありません。誠実に仕事に取り組むことが出来る人は、日本でも海外でも大丈夫です。留学は、言語の壁や経済的なことなど、ハードル高く感じるかもしれませんが、思い切って挑戦して欲しいと思います。

 

今のやりがいと目標をお聞かせください。

 一番のやりがいは、教室のみんなと仕事の喜びを共有できることです。私は、若手との対話を大切にしています。それぞれが何を思っているのか、どんな希望を持っているのか。時には自分の経験や知識、考えなどを交えながら、ひとりひとりの話を聴いています。

 今、私の研究室では大きく3つのことに取り組んでいます。一つ目は網膜の自然再生。これは自然治癒力によって失った機能を取り戻すことを目指したものです。二つ目は眼科手術ロボット開発。外科手術補助ロボット・ダビンチの眼科版と思うと分かりやすいと思います。三つ目は、久山町研究と共同で取り組んでいるAI技術を活用した、眼底写真の解析とゲノム情報を組み合わせた病気リスクの予測システム開発です。

 まとまりのない3テーマですが、このように設定しているのは受け入れ間口を広く持ちたいと思うからです。これだけ間口がひろいと、どこかに自分のテーマがあります。それぞれの興味に合致するものが私の研究室にあり、自らの意思で私たちのチームの一員になってくれる。そして一緒に仕事の成功を分かち合うことが出来、その成功体験を共に重ねていく。これを繰り返していくことで、喜びは数倍に膨らみます。こんな喜びの増幅を生むチームを作ることが、教授職の一番のやりがいであり目標であると思います。
 

3つの研究について詳しく教えてください。

 まず、網膜の自然再生について。ある細胞を失った時に、他の細胞がその代わりとなるべく分化増殖する。それが自然治癒力です。網膜にはそれがないというのが通説ですが、これまでの研究によって一歩手前までは進んでいることがわかってきました。先に進まないのは、それを抑制する機構があるはずで、その解明に取り組んでいます。失った視力は取り戻せないという常識を覆したいと思っています。

 眼科手術ロボットについて。私はかねてより「眼の中に入る小人を作りたい」と夢見てきました。眼の中に入ることが出来て、裏側から手術を行うような、そんなことが出来たらいいと。眼科の手術はミクロ単位の世界です。日本の得意とするテクノロジーが活かせる分野で、幸い素晴らしい工学部の先生と出会うことができました。それで眼科手術ロボットの共同開発に取り組むことにしたのです。

 病気リスクの予測システムについて。眼は体の覗き窓だと私は思っています。眼球内に光を当てて生体顕微鏡で拡大してみると、どういう生体現象が起きているか直に観察でき、全身の状態と関連づけられます。眼科にはこれまでの眼底写真が膨大に蓄積されています。その情報解析をAIが担いゲノム情報と組み合わせることで、各人の将来の病気リスク予測を行うことができると考えています。

 

最後に学生さんにメッセージをお願いします。

 生命科学・医学は奥深く、どの研究分野や診療科に進んでもハズレはありません。受験生はぜひ頑張って入学してきて欲しいと思います。それだけの価値はあります。

 学生のうちに、これからの人生についてゆっくり考える時間を持ってください。一見無駄かな?と思うことにチャレンジしてみるのもいい。そういうことも大切です。何に興味を持ってもいいし、その価値を決めるのは自分自身です。医学部には素晴らしい先生がそろっているので話を聞きに行ってみてください。きっとすばらしい出会いがあるでしょう。私も学生が自分のところに来てくれて、私の話で人生が変わった。そんなことが起きた時はとても嬉しく感じます。

 自分の可能性を信じ、誠実に自分の仕事をやり遂げる人物になって欲しいと思います。
 

園田教授について

園田 康平 教授
医学研究院 臨床医学部門 外科学講座 眼科学分野
趣味は散歩。散歩をすると頭の中がリセットされ、いろんなアイデアが浮かぶそうです。
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