教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

研究者を志されたのはいつ頃ですか。

 研究者を目指そうと思ったきっかけは、農学部3年生、20歳のときの体外受精の実習でした。生命の始まりに触れ、ただただ感動し、魅力を感じました。その時に具体的に研究者になるという将来像を思い描いたわけではないのですが、こんな仕事に携わりたいと思いました。それまでは、牧場の仕事もいいな、オーストラリアに行って羊毛の牧場をやろうかなと思っていたのですが、まったく変ってしまいました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 学部1、2年生の頃は普通に授業を受け、友人たちと自由を謳歌していました。水泳をやっていたので、高校にコーチとして教えに行ったりしていたのですが、3年生で研究室に配属されてからは研究に夢中になり、ずっと研究室で実験を行っていました。
 

研究者としての初期の歩みをお聞かせください。

 研究というと白衣を着て何かを調べるという大まかなイメージしかなかったのですが、実際にやってみると、とにかく体力を使うと感じました。実験は体を動かさないと進まないし、思い通りの結果が得られないと原因を探るため同じことを繰り返し行う。疲れるし、体力と知力、気力が必要だと思いました。

 研究者としての基礎を身につけたのは、22歳から28歳くらいまでの期間だったと思います。学部生の頃から大学院修士課程に進学した初めの頃までは、とにかく実験結果を素直に捉え、理由を考え、理論に基づき次の実験を計画する。ひたすらその繰り返しを行いました。研究者として本格的にトレーニングを積むことができたのは、修士を卒業し、助手として働きだした24,25歳の頃だと思います。私は修士を卒業した後、東京理科大学生命科学研究所の助手(現在の助教)として採用して頂いたのですが、研究者としては半人前であったと思います。それでも、学生を指導する立場になり、一緒に実験を行い、指導というか共に考えることを繰り返していくうちに、研究者として本当の力がついたと思います。たくさんの先生にお世話になり、実験の仕方、考え方の研鑽を積ませて頂きました。その時に身についたことは、今でも活きていますし、むしろ変っていません。
 

現在の専門に進まれたきっかけをお聞かせください。

 初めて体外受精に触れたときから変わらず、体外受精の研究を行っています。研究者になりたいと思ったきっかけが今の専門に進んだきっかけということになりますね。
 体外受精は1980年代に日本でも臨床の場で活用され始め、私が学生のときには技術的には目新しいものではなかったのかもしれませんが、当時、自分が実際にやってみての感動は凄いものがありましたし、クローン技術やES細胞、iPS細胞など発生工学的な技術は体外受精の研究を基盤としています。まだ解明されていないことも多く、深く探求を続けていきたいと思います。

研究の面白さを教えてください。

 研究というものは、一言でいうと『たのくるしい』んです。楽しいけど苦しい、だけど楽しい。これは表裏一体で、苦しくないと楽しくない。苦労して得られた結果はやはり嬉しいです。日頃、思い通りの結果はほとんど出ません。思い通りの結果がでるのは10-20回に1回くらいです。それでも、それぞれの結果を考察し繰り返すうちにひとつの真実が見えてきます。なかなか思い至らなかったことに辿り着けたときは、とても高揚します。人間は浅はかだとも思いますし、真理の奥深さに感銘を受けることもあります。

 それから、基礎研究の面白さは、いい意味で何の役に立つかわからないことだと思います。どのような応用研究に利用されるかわからない。まさに瓢箪から駒のような、意外で無限の可能性を秘めています。現在、体外受精の技術も臨床の場で活用され、多くの方に喜びをもたらしています。その中でも諦めざるを得ない方がいらっしゃることも現実です。この現状を打破するのは、基本的メカニズムの解明、基礎研究の積み重ねが必要となります。私の研究も貢献できればと願っていますし、我々基礎研究者に大切なのは、積み重ねていくことだと思います。
 

やりがいと目標をお聞かせください。

 やはり、若い学生さんと議論しながら実験を進めていくことは面白く、ラボ内でのやりがいになっています。

 目標と聞かれても、サイエンスは続いていくもので、ひとつがわかれば次の疑問が出てきますし、ゴールという意味での目標はありません。分岐点という意味での目標は2つあげられます。ひとつは、卵母細胞がどのようなメカニズムで動かしているか、卵子がどうやってできているか、その糸口を掴みたいと思います。もうひとつは、卵子作製の技術を向上させることです。様々な動物に応用できるようにするなど、その技術を確かなものにしたいと思います。
 

学生さんにメッセージをお願いします。

 やりたいことはその時々で違ってくるものだと思いますし、価値観も変化していくものだと思います。自分の心と向き合い、心の声をよく聞いて、それに正直でいること。やりたいことを決めたら、それに対する努力を惜しまず、毎日を大切に過ごすことを心がけて欲しいと思います。

 それから、若い時に感動する経験をして欲しいと思います。2002年に私が、一から実験をデザインし書き上げた論文が掲載されたのですが、あの時の感動は今でも覚えています。自分の考えが世に認められたと思いとても嬉しかったです。その後、もっとメジャーな雑誌に掲載して頂いたこともありますが、あの時の感動には代えられなかったです。若い人にはこういった経験が大切だと思います。

 研究者を目指す方に向けては、研究者として大事なものは、興味を持ってやっていくことが出来るか、執着して持続してやれるかどうか、だと思います。好奇心を持って日々の積み重ねを継続して欲しいと思います。
 

林教授について

林 克彦 教授
医学研究院 応用幹細胞医科学部門 応用幹細胞医科学講座 ヒトゲノム幹細胞医学分野
一番楽しい時間は研究をしているときで、趣味は研究とのこと。他にあえて挙げるなら読書、釣りやたまに水泳。
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